浦和地方裁判所 昭和50年(レ)7号 判決
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【判旨】
一控訴人所有の埼玉県秩父郡横瀬村大字横瀬字姿四、二六二番一畑三一九平方メートル及び同番九畑二〇五平方メートルは、もと同番一畑五二四平方メートルの一筆の土地であつたのを昭和四五年七月九日分筆されたものであること、別紙図面記載の順次A、B、D、C、Aを結ぶ線で囲まれた部分の土地は、右分筆後の四、二六二番一の畑地内に存し、現況道路(以下本件道路という。)となつていること、本件道路は北方に延長した状態で控訴人所有地外に存する道路(以下接続道路という。)に接続していることは当事者間に争いがない。
二<証拠>によると、次の事実が認められ<る。>
(一) 本件道路北方は、上り傾斜の山地状の土地となつており、その山腹に存する前記接続道路の両側には、現在被控訴人居住の家屋など十数戸が並んでいるが、昭和二五年当時は殆んど開拓農地、山林であつた。本件道路南端は公道に接しているが、昭和二五年当時本件道路の存する部分は、右公道から右山腹の畑地に往復する人々の通行によつて自然にできあがつたリヤカーなどが通れる位の広さの道路となつていた。
(二) 本件土地北方山腹の秩父市熊木町六、一五三番二山林一三二平方メートル及び同所六、一三九番九山林八二平方メートルの二筆の土地を所有していた被控訴人の先代赤岩萬作は、昭和二五年三月頃同地に自己の居住する居宅を建てることを計画したが、公道に自動車で出入りできるような広さの通路が全くなかつたため、自動車の通行の可能な広さの道路を必要とした。ところで、被控訴人ら所有土地から公道に自動車の出入りする広さの道路を開設するには、本件道路の存する部分が短距離であるうえ直線的であつて開設作業も容易であるが、他の場所にこれを開設することは不能でないとしても、事実上開設が容易でない状況にあつた。
(三) 前記萬作は、同じく右山腹に土地を所有する訴外亡浅見勝二と共に、昭和二五年三月下旬頃本件道路の前記元通路部分を土砂を入れるなどして本件道路の広さに拡張すると共に、その北方にこれと直線につながる前記接続道路を開設した。なお、本件道路の存する控訴人所有の四二六二番一の畑地は、前記のとおり北方傾斜地の裾に位置しているため、降雨があると、右傾斜土地から右畑地内に雨水や土砂が流入し、農作物を害したり、場合によつては鉄砲水となつて土地をえぐつたりする状況にあつたところ、前記萬作及び勝二は、本件道路を開設するのと併せて、右控訴人土地の雨水等の流水を防止するため、本件道路北方の傾斜土地に排水溝等を設置した。
(四) 右萬作は、本件道路開設後、前記山腹所有地に居宅を建築して居住し、本件道路を公道に通ずる道路として利用し、同人が死亡した昭和三四年五月九日後においては、これを相続により承継した被控訴人が、前同様これを通路としてきたものであるが、被控訴人らの右通行利用につき、控訴人において右通行利用を阻止する態度にでた昭和四三年五月二二日に至るまでの間、控訴人から異議を述べられたことはなかつた。
(五) 又、本件道路が開設された後、北方山腹地帯に順次人家が建築され、現在においてはおよそ二〇世帯に及ぶ住民が居住し、その大部分が本件道路を通行に供している状況にある。
三次いで被控訴人主張の通行地役権設定契約の成否について判断する。
1 その記載内容が前記認定の本件道路の開設の事実と符合する事実に、<証拠>によれば、被控訴人の先代赤岩萬作及び訴外浅見勝二は、前記のとおり本件道路を開設するに当り、昭和二五年三月二六日控訴人との間に、控訴人が右萬作らに対し、本件道路を開設して通行利用することを認め、一方右萬作らにおいて、右通行利用の承認を得たことの見返えりとして、本件道路北方の前記傾斜地から控訴人所有地に雨水、土砂が流入することを防止するため、右傾斜地に排水設備を設け且つこれを管理する旨の合意が成立したこと、右合意について期限を定めなかつたこと、次いで、萬作と勝二との間で、萬作において本件道路の開設及び前記排水設備工事を施行し同年六月中に完成させるものとし、一方勝二において、右工事に必要な砂利、砂を供給するほか人夫延七名分を負担する旨の合意が成立し、その際控訴人も右合意に立合つてこれを了承したこと、萬作は、右各合意成立後、直ちに訴外浅見廣作にその工事を依頼し、その結果前記のとおり本件道路及び接続道路が完成し、又コンクリート排水溝の設置がなされたものであること、右工事に要した人夫数は、道路工事につき延二、三〇人、排水溝工事につき延べ一〇人位でその当時の人夫一日当りの手間賃は二〇〇円ないし三〇〇円位であつたことが認められ、<証拠判断略>。
2 ところで、他人の土地を通行利用し得る権利の性質が地役権或いは賃借権等の債権の何れであるかは、その設定契約の内容、通行利用の目的及び必要性の程度その他諸般の事情を考慮し、契約当事者の意思を合理的に解釈して決すべきであつて、契約当事者が契約条項の文言に「地役権」なる名称を明示していなければ、その契約が地役権を設定したと解し得ないものでないことは当然である。これを本件についてみるに、萬作は自己の所有地に建物を建築し、且つこれに居住するについてその敷地と公道との間に自動車の通行し得る道路を確保するため控訴人と前記契約をしたものであること、本件道路の通行利用は萬作の居住生活上その必要性が継続的で程度も大きいものであること、右契約は、萬作らが本件道路を通行利用することの代償として、その費用負担において、控訴人のため控訴人以外の土地に排水設備を設置管理する内容のものであり、従つて控訴人も右排水設備の設置管理によつて、自己所有地につき継続して流水防止の利益を得ることとしたものであること、昭和二五年当時において未だ人家も存しない本件道路付近の村落地帯の地価が低額であつたものと推認されることに照らすと、萬作らの右排水設備の設置に要する人夫賃及び資材費等の負担及びこれ将来にわたつて管理することの負担と控訴人が本件道路を萬作らの通行利用に供することの負担とは全く均衡を失つていたものとは考えられないこと、右契約には存続期間の定めがなく又証拠上萬作らと控訴人との間側、右通行利用を一定期間に限ることを前提としていたとみられる事跡も認められないこと、ちなみに、控訴人は本件道路の開設以来約一八年の間異議なく萬作及び被控訴人らが本件道路を通行利用することを容認してきたことなどの諸事実を綜合すると、萬作及び浅見勝二と控訴人が前記契約により設定した本件道路の通行利用の権利は、萬作の前記所有地を要役地、本件道路を承役地とする通行地役権であると認めるのが相当である。
(柿沼久 雨宮則夫 吉田恭弘)